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【読書録】東京タワー

東京タワーは小説の題名になり得るけど、スカイツリーにはそれは無理だと思う。
歴史の差なのか、語感の差なのか。
とにかく、私たちは『東京タワー』という言葉に様々な物語性を感じさせられる。昭和の空気だったり、ノスタルジーな感覚だったり、恋人たちがタクシーの中で高速から眺めるものだったり…


本作は、江國香織さんの作品の中ではかなり異色ともいえよう。
なんせ主人公は、女性ではなく、大人でもなく、子供でもないのだ。
19歳の少年ー…

自分が19歳だったころ、私は自分を少女だとは思っていなかった。でも今思い起こせば、当時間違いなく私は少女だった。私は耕二をもう少し自堕落にさせたような男の子に恋をしていた。結局は他の女の子の影を感じても見て見ぬふりをすることに疲れ、由利のように離れることを決意したのだが、あの恋で確実に私は少女性を失ったと今でも思う。
好きな人に裏切られることは、人を大人にならざるを得なくさせる。


この小説を読んだ時、私の頭にはどうしてか透と詩史の物語はあまり入ってこなかった。少年というのは盲目的なものだが、自分の好きになった人をここまで過信して追従してしまう男の子を、私は見たことがないからだと思う。
対して耕二はかなりリアリティのある存在に映った。自己評価が高く、自分を過信している少年は、世の中に五万といる。加えて、由利のような、なにも考えていないバカでかわいい女の子のように振る舞う少女も、世の中に五万といる。
だが、私にとって最も心揺さぶられた存在は、吉田だ。

吉田ほど痛々しい少女を、私は知らない。同級生の耕二と関係を持っていた自分の母親・厚子を憎む少女。
彼女が耕二を追い求めるのは、確実に彼を好きだからという理由ではない。おそらく、痛みを乗り越えるためだ。

レイプをされた女の子で、誰とでも寝るようになってしまう子はとても多い。これは普通の人にとってはかなり意外なことだろう。
普通は男が怖くなるのでは?そんな行為は受け入れられなくなるのでは?本当は嫌ではなかったのでは?
様々な疑問が彼女たちの細い背中には浴びせられる。
だがそのような行為は、実は傷口に塩を塗り込んでなんとか生きて行こうとする、彼女たちなりに前を向くための行為だったりもするのだ。
複数の人と寝ることで、そんな行為をたいしたことのないこととして、なんとか自分の人生を受け入れようとする、哀しき防衛本能とも言える行為だ。

私は、吉田も同じだと思う。
昔好きだった耕二、母と寝ていた耕二、自分と父を裏切った耕二、母が未だに愛する耕二…
吉田にとっては、耕二と寝ることしか、過去の事実を糧に変える方法がないのだ。
哀しい、本書での描かれ方よりずっと、哀しくて出口を塞がれた女の子だと思う。
耕二に『孤独』と称された貴美子より、ずっとずっと孤独だ。

耕二は最後まで、自分のしてきたことがそこまで悪いことー他人の生き方を変えてしまうようなことーだとは思えていなかった。きっと彼は生涯ソツなく、その事実に気付かずに生きるのだろう。
男の中には、目の前の女の、目に見える部分がその女の全てだと思ってしまう、愚かなやつもいるのだ。